2011年07月30日

実力派

実力派――チョイ気になる言葉 3

今朝、テレビからふと聞こえてきたのは、プロ野球の工藤公康
投手の長女・遥加さんが、ゴルフのプロ・テストに合格したと
いうニュースだ。ナレーションはさらに、「実力派の呼び声高い
○○選手も……」と続いた。

この「実力派」という言葉を聞いたとたん、○○選手の容姿に
関心を失ってしまった視聴者は、僕だけではないだろう。いや、
見えない僕にだって、人の容姿に関心を持つ権利はある。
貫地谷しほりちゃんがどんな顔なのか、気になって気になって
しかたがない。

それはさておき、問題は「実力派」だ。一種のマスコミ用語だと
思うが、なんとも妙な、そして罪な言葉である。

尺八吹きとして墓穴を掘ることを覚悟で言い放つなら、プロ
もしくはプロを目指す者にとって、「実力」があること、あるいは
「実力」を磨きつつあることは大前提だ。つまり、だれもが原則
「実力派」なのである。それなのに、なぜわざわざ「実力派」と
言ったのか、とテレビ慣れした日本の視聴者は考える。

まず、マスコミがなにはさておき飛びつくはずの「容姿」に
触れていない以上、この面ではかなり残念な感じなのだろう。
また、経歴その他、話題性にも乏しいと思われる。そして肝心の
「実力」についても、ズバ抜けているならナンバーワンとか
ピカイチとか、他の表現があるだろうから、そこそこのレベルに
とどまっているに違いない。

おそらく、この推測は9割がた当たっている。「実力派」は、
マスコミが好む「意味がないだけに無難」な言葉の代表のような
ものだからだ。「無難」とは、言うまでもなく、後々自分たちが
責められる余地がない、という意味である。

なぜ「9割」なのかというと、こうした無難な言葉は、実際に
何も言うべきことがない場合だけでなく、取材していないために
何も言えない場合にも使われる可能性があるからである。今朝の
○○選手も、本当はとてもきれいなのに、取材されなかった
ばかりに「実力派」で片付けられてしまったのかもしれない。
でも視聴者は、とりわけ容姿については、無意識に先ほどの
ような推測をしてしまう。マスコミにとって無難な言葉は、
取り上げられた者にとってはけっして無難ではない。

さらにいえば、「実力派」と並べられてしまった相手、今朝の例で
いうと工藤遥加選手にとっても、あまり嬉しい話ではない。
まるで彼女のほうは「実力派」ではないかのような、つまり、
話題性だけの選手であるかのような印象を持たれてしまうからだ。

とはいえ、マスコミ、なかでもテレビの報道は、この種の言葉を
安易に多用することで成り立っているようなものかもしれない。
ナレーション原稿に、僕がブログを書くような時間をかけて
いたら、『めざましテレビ』は『おやすみテレビ』とタイトルを
変えなければならなくなるだろう。

ところで、森高千里は、『非実力派宣言』という曲を出している。
初めて聴いたとき、潔いなあと思った。彼女の歌は、本人が
歌詞の仲で言っているとおり、本当にヘタだと思うけれど、僕は
彼女のファンである。

posted by しんどう at 00:04| Comment(0) | TrackBack(0) | チョイ気になる言葉

2011年07月20日

「を重ね」言葉

「を重ね」言葉――チョイ気になる言葉 2

昨日アップした「許される失点」の内容について、『ボキャ天』の
くだりがわかりにくいとの指摘があったので、補足しておく。

ボキャ天こと『ボキャブラ天国』は、言葉をモジって遊ぶ
バラエティ番組だった。くだんの爆笑問題のネタは、「汚名挽回に
行ってこい」を「おめえパン買いに行ってこい」に変えたもの。
音の重なり具合といい、意味のギャップといい、傑作の一つだ。

ただ、元の「汚名挽回」という言葉が、本当は間違いだという
ことを、太田ですら意識していない、と言いたかった。

ついでなので、別の言葉について書いてしまう。
主に政治家が使う、「を重ね」とも呼ぶべき言葉遣いだ。

「法案を否決をする」「景気を回復をさせる」
「を」が並ぶこうした言い方を、僕はとっても変だと思うのだが、
これに対して僕以外のだれかが何か言うのを、聞いたことがない。

「する」という言葉は、単独で英語の「do」の意味の動詞だが、
漢語その他の動詞的な意味の言葉の後ろについて、「判断する」
「チェックする」「フランベする」のように、日本語の動詞にして
しまう働きもする。「判断」「チェック」「フランベ」などの言葉は、
日本語の中では名詞としても使うから、「判断がつかない」
「チェックに手間取る」「フランベは難しい」などの表現も、
もちろん正しい。

したがって、たとえば「勉強」という言葉を、動詞的に使って
「英語を勉強する」
とも言えるし、名詞的に使って
 「英語の勉強をする」
とも言えるわけである。では、
 「英語を勉強をする」
と言いますか? 言いませんよねえ。

「を」は、英語でいう「目的格」、動作の対象を表す助詞だ。
つまり問題の文での「勉強」は、「英語」との関係では動詞的な、
「する」との関係では名詞的な働きをしていることになる。
なんて文法的な分析より前に「を」が並んだ響きが、そもそも
強烈に違和感がある。

政治家だけでなく、記者会見の官僚などもこの「を重ね」を
使っているように思うが、それがいつからなのかはわからない。
ただ、気に也はじめたのはそれほど昔ではないようにも思う。

原因はおそらく、日本人に共通する「言葉を増やせば丁寧になる」
という錯覚だろう。「法案を否決する」より「法案を否決をする」
のほうが、「景気を回復させる」より「景気を回復をさせる」の
ほうが丁寧なように感じてしまうのに違いない。

もう一つ考えられるのは、それこそ「失言」が許されないという
プレッシャーの中で、少しでも時間をかせぎたいという心理も
働いているのかもしれない。

いずれにせよ、あのオジサマたちに、「こちらコーヒーになります」
「お皿のほう、お下げします」といった若者言葉に文句をつける
資格はない。
posted by しんどう at 12:16| Comment(0) | TrackBack(0) | チョイ気になる言葉

2011年07月19日

許される失点

僕のブログはたいてい長くなってしまうので、書くのも大変だが、
読んでいただくのもけっこう大変。そこで、ネタがないとき、
長いのを書いていて行き詰まったときに、とりあえずつなぎに
なるカテゴリーを作っておこうという、姑息な考えである。

「汚名挽回」という言い間違いがある。汚名、つまり不名誉を
わざわざ取り戻してはいけない。汚名は「返上」するものだ。

ただ、「失敗しちゃったあ」という気持ちが「汚名」という言葉を
選ばせ、「なんとかしなきゃ」という思いが「挽回」という言葉を
引っ張り出して、それをくっつけてしまったという、思考の
メカニズムは理解できる。しかも、そこに「名誉挽回」という
紛らわしい言葉まであるのだから。

もちろん、これはまじめに間違えている人の場合で、これだけ
ポピュラーな間違いになると、すでに「汚名挽回」という響きが
われわれの頭にインプットされてしまっている。だから、汚名の
意味がどうの、挽回の意味がどうのと考えずに、すっと口を
ついて出てしまう、そしてそれが間違いだなどと疑いもしない
ケースが、今では普通なのに違いない。

その昔『ボキャ天』(若者は知らないかな)で、爆笑問題がこんな
ネタをやった。エラーでチームに迷惑をかけたから、それを取り
返すチャンスのくれという高校球児に、監督が一言。「よし、
おめえパン買いに行ってこい」。
『ボキャ天』のネタを考えていたのは田中だという話しもあるが、
いずれにせよこういう間違いに一番カミツキそうな大田が、
当たり前のようにこれをやってしまうのだから、「汚名挽回」の
浸透度はかなり高いと考えていい。

実はここまでは今回のテーマの前フリ。でも、本題はすぐ終わる。

なでしこジャパンのあの感動の決勝戦で、フジの実況アナが、
アメリカにゴールを決められたことを、
「アメリカに失点を許してしまいました……」
と言っていた。それも、たぶん2度。「汚名挽回」に似たタイプの
間違いである。

むろん、許したのは「得点」であって、「失点」を許したのなら、
日本のほうに点が入る理屈だ。
でも、どうしても「なでしこ」目線で、「取られちゃったあ」と
いう気持ちが「失点」という言葉を選ばせた、その事情はよく
理解できる。もしかしたら、なでしこたちに感情移入して、同じ
思考回路になっていたほとんどの日本人は、間違いに気づきも
しなかったのではなかろうか。

アナウンサーにとって言い間違いは「失点」だが、今回ばかりは
それこそ「許される失点」なのかもしれない。
……やっぱりけっこう長くなってしまった(苦笑)
posted by しんどう at 10:15| Comment(0) | TrackBack(0) | チョイ気になる言葉