2011年07月10日

変拍子・その1

変拍子・その1――すいすい句ろん 4

★蜘蛛の囲に朝日や神はおはすらし   粋酔

 僕の知る限りでは、五音と七音の組み合わせは、すでに
『万葉集』のころに「唄」、つまり定型詩の主流となっていた。
それ以来、日本の歌人・詩人は「4拍子8ビート」にノって
想を練り、日本の読者はその「4拍子8ビート」のリズムの
快感に酔ってきたといっても、たぶんあんまり過言ではない。

 たいていは五と七が交互に並ぶけれど、中には七七七五の
都々逸なんて変わり種もある。七音のわかりやすい8ビートを、
3小節続けて聞かせておいて、最後は例の3拍めのアタマで
ハギレよく終わるというシカケだ。一方、短歌や長歌、
いわゆる「和歌」が、最後は「七七」で終わるのは、ハギレの
よい終わり方を嫌って、むしろ余韻を感じさせたい、という
ことではないかと推測する。

 伝統的な形式だけではない。近代詩の中でも、定型詩と
呼ばれるのは、結局五音・七音の組み合わせだ。立原道造などが
西洋の定型詩である「ソネット」の形式で作品を書いているが、
日本語の定型詩として認められたわけではない、と書きたいが、
ちょっとウィキった(注・「インターネット上の百科事典
『ウィキペディア』で調べた」の意)くらいで断言するのは
危険なのでやめておく。あとついでながら、演歌の歌詞は
現在でも七五調がけっこう多い。

 ちなみに、近代詩人に属する中原中也の定型詩、たとえば
「幾時代かが[七音]ありまして
  茶色い戦争[八音]ありました」(『サーカス』 [ ]は筆者)
のように、八音は当たり前に出てくる。「七五調」ではなく、
8ビートをこそ意識している証拠だ。

 さて、タイトルにした「変拍子」を、音楽的に細かく説明
しようとするとややこしくなるので、ここではざっくり、
日本の定型詩に出現する「4拍子8ビート」からはずれた
リズムをこう呼んでいる、と理解しておいていただきたい。

 日本の定型詩の中で、変拍子が最も多く使われるのは、
文句なくわれらが「俳句」だ。その理由を、僕は次のように
考えている。

 第一に、俳句は短い。リズムは、繰り返されることで強く
意識されるので、中原中也や島崎藤村の定型詩を読んでいると、
もうたまらなく「4拍子8ビート」な気分になる。ところが、
俳句はたった3小節、それも、8ビートっぽくない五音の
ほうが2小節だ。だから、読む人は「4拍子8ビート」を
それほど強くは意識しない。したがって、リズムがそこを
はずしたとしても、あまり違和感がないのだ。

 第二に、俳句は短い。たった十七音で何かを表現しなければ
ならないのだから、五・七・五の切れ目にこだわりすぎると、
内容のほうが犠牲になる恐れがある。言いたいことを言い
尽くすため、リズムに泣いてもらうしかない場合もあるわけだ。

 第三に、俳句は短い。その分たくさん作れてしまうので、
ワンパターンだとあきる。リズムを変えることも一つの表現
技法として、いろいろ試みてみたくもなるのだ。これは、
ヒネクレ物の僕にとっては、最も大きな理由だ。

 そんなわけで、今回からは、俳句における「変拍子」の
パターンをいくつか見ていきたい。まず取り上げるのは、
「中間切れ」である。例によって、上掲の拙句を題材とさせて
いただく。

 「蜘蛛の囲」は、漢字の見田目から明らかなように、網状の
蜘蛛の巣のことである。ひと晩にして出来上がった精緻な造形。
そのところどころに露の残る早朝、朝日を浴びた蜘蛛の囲は、
神々しいまでに美しい……なんてあたりを詠もうと思った。
もちろん、今の僕に見えるわけがない。昆虫好き、とくに蜘蛛
(分類上昆虫ではないが)は大好きだった、少年時代の記憶だ。

 この句は、言葉の切れ目(文法用語でいえば「文節」の
切れ目)を見るかぎり、一応五・七・五に分かれている。
しかし問題は、中七のド真ん中の「や」だ。何しろ転化の
「切れ字」だから、どうしたってここで切れないはずがない。
こういうのを「中間切れ」という。

 つまりこの句は、大きくまとめるなら「九・八」、細かく
分けても「五・四・三・五」。いずれにせよ、楽譜にして拍子
記号をつけようとすると、なかなか面倒なことになる。
少なくとも、「4拍子8ビート」ではない。

 では、この句を音読するとき、九音・八音に切手読むか。
たぶん、そうはならないだろう。ただ、上五のあとに休符3つ、
中七のあとに休符1つ……と、能天気な「4拍子8ビート」で
読むのも、やはり難しい。「や」の切れを意識して、なんとなく
変拍子を漢字ながら、少し違うリズムで読むに違いない。
それが面白い、と僕は思う。

 ためしにこの句を、内容は変えずに、無理やり正統派の
「五・七・五」にしてみる。たとえば、
 「神業か朝日あたれる蜘蛛の網」
 さあ、どちらがいいだろう。まあ、結局は好みかな。














蜘蛛の囲に朝日や神はおはすらし   粋酔

 僕の知る限りでは、五音と七音の組み合わせは、すでに
『万葉集』のころに「唄」、つまり定型詩の主流となっていた。
それ以来、日本の歌人・詩人は「4拍子8ビート」にノって
想を練り、日本の読者はその「4拍子8ビート」のリズムの
快感に酔ってきたといっても、たぶんあんまり過言ではない。

 たいていは五と七が交互に並ぶけれど、中には七七七五の
都々逸なんて変わり種もある。七音のわかりやすい8ビートを、
3小節続けて聞かせておいて、最後は例の3拍めのアタマで
ハギレよく終わるというシカケだ。一方、短歌や長歌、
いわゆる「和歌」が、最後は「七七」で終わるのは、ハギレの
よい終わり方を嫌って、むしろ余韻を感じさせたい、という
ことではないかと推測する。

 伝統的な形式だけではない。近代詩の中でも、定型詩と
呼ばれるのは結局五音・七音の組み合わせだ。立原道造などが
西洋の定型詩である「ソネット」の形式で作品を書いているが、
日本語の定型詩として認められたわけではない、と書きたいが、
ちょっとウィキった(注・「インターネット上の百科事典
『ウィキペディア』で調べた」の意)くらいで断言するのは
危険なのでやめておく。あとついでながら、演歌の歌詞は
現在でも七五調がけっこう多い。

 ちなみに、近代詩人に属する中原中也の定型詩、たとえば
「幾時代かが(七音)ありまして
  茶色い戦争(八音)ありました」(『サーカス』、( )内は筆者)
のように、八音は当たり前に出てくる。「七五調」ではなく、
8ビートをこそ意識している証拠だ。

 さて、タイトルにした「変拍子」を、音楽的に細かく説明
しようとするとややこしくなるので、ここではざっくり、
日本の定型詩に出現する「4拍子8ビート」からはずれた
リズムをこう呼んでいる、と理解しておいていただきたい。

 日本の定型詩の中で、変拍子が最も多く使われるのは、
文句なくわれらが「俳句」だ。その理由を、僕は次のように
考えている。

 第一に、俳句は短い。リズムは、繰り返されることで強く
意識されるので、中原中也や島崎藤村の定型詩を読んでいると、
もうたまらなく「4拍子8ビート」な気分になる。ところが、
俳句はたった3小節、それも、8ビートっぽくない五音の
ほうが2小節だ。だから、読む人は「4拍子8ビート」を
それほど強くは意識しない。したがって、リズムがそこを
はずしたとしても、あまり違和感がないのだ。

 第二に、俳句は短い。たった十七音で何かを表現しなければ
ならないのだから、五・七・五の切れ目にこだわりすぎると、
内容のほうが犠牲になる恐れがある。言いたいことを言い
尽くすため、リズムに泣いてもらうしかない場合もあるわけだ。

 第三に、俳句は短い。その分たくさん作れてしまうので、
ワンパターンだとあきる。リズムを変えることも一つの表現
技法として、いろいろ試みてみたくもなるのだ。これは、
ヒネクレ物の僕にとっては、最も大きな理由だ。

 そんなわけで、今回からは、俳句における「変拍子」の
パターンをいくつか見ていきたい。まず取り上げるのは、
「中間切れ」である。例によって、上掲の拙句を題材とさせて
いただく。

 「蜘蛛の囲」は、漢字の見田目から明らかなように、網状の
蜘蛛の巣のことである。ひと晩にして出来上がった精緻な造形。
そのところどころに露の残る早朝、朝日を浴びた蜘蛛の囲は、
神々しいまでに美しい……なんてあたりを詠もうと思った。
もちろん、今の僕に見えるわけがない。昆虫好き、とくに蜘蛛
(分類上昆虫ではないが)は大好きだった、少年時代の記憶だ。

 この句は、言葉の切れ目(文法用語でいえば「文節」の
切れ目)を見るかぎり、一応五・七・五に分かれている。
しかし問題は、中七のド真ん中の「や」だ。何しろ転化の
「切れ字」だから、どうしたってここで切れないはずがない。

 つまりこの句は、大きくまとめるなら「九・八」、細かく
分けても「五・四・三・五」。いずれにせよ、楽譜にして拍子
記号をつけようとすると、なかなか面倒なことになる。
少なくとも、「4拍子8ビート」ではない。

 では、この句を音読するとき、九音・八音に切手読むか。
たぶん、そうはならないだろう。ただ、上五のあとに休符3つ、
中七のあとに休符1つ……と、能天気な「4拍子8ビート」で
読むのも、やはり難しい。「や」の切れを意識して、なんとなく
変拍子を漢字ながら、少し違うリズムで読むに違いない。
それが面白い、と僕は思う。

 ためしにこの句を、内容を買えずに無理やり正統派五・七・五にしてみる。たとえば、
 「神業か朝日あたれる蜘蛛の網」
 さあ、どちらがいいだろう。まあ、結局は好みかな。
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